2026年度税制改正大綱が公表されました。

税制改正大綱は、すべてが即座に実行される決定事項ではありませんが、今後の制度設計や運用の方向性を示す重要な指針です。ここに示された考え方は、数年かけて具体的な制度へと落とし込まれ、企業経営の現場に影響を及ぼしていきます。

経営者にとって大切なのは、正式決定を待ってから対応を考えることではなく、制度がどこへ向かおうとしているのかを先に読み取ることです。
税制は単なる負担の問題ではなく、設備投資や人材戦略、賃金設計といった経営判断と密接に結びついています。

今回の税制改正大綱は、物価上昇の長期化、人手不足の常態化、社会保障費の増大といった構造的な課題を前提にまとめられました。
短期的な景気刺激策というよりも、企業経営の在り方そのものを問い直す内容になっています。

特徴的なのは、税率を大きく動かすのではなく、制度の使われ方や適用の考え方に焦点を当てている点です。
成長投資や賃上げを後押しする一方で、制度本来の趣旨から外れた利用については抑制する。その姿勢が全体を通じて一貫しています。
税制改正大綱は、申告実務のための資料であると同時に、国が企業にどのような行動を期待しているのかを読み取るためのメッセージでもあります。今すぐ影響が出ない内容であっても、方向性を把握しておくことは、将来の意思決定に必ず活きてきます。


2026年度の法人税について、税率の引き上げや引き下げといった大きな変更は示されていません。

法人税改正の方向性と実務への影響

一見すると、法人税は従来通りと受け止められがちですが、今回の改正の本質は別のところにあります。

重視されているのは、税制優遇の考え方そのものです。
研究開発や設備投資など、企業の成長につながる支出を後押しする姿勢は維持される一方で、形式的に要件を満たすだけの利用については、より慎重な目が向けられる方向性が示されています。

たとえば、税制優遇を前提に設備投資を行ったものの、実際には稼働率が低く、事業計画とも十分に結びついていない場合、制度の趣旨とのズレが生じやすくなります。
投資そのものが問題なのではなく、「税制を使うための投資」になってしまうことが、結果としてリスクを高めてしまう点には注意が必要です。

経営者として意識したいのは、税制を先に置くのではなく、事業戦略や成長方針を軸に判断することです。
その結果として制度の恩恵を受けられるのであれば、それは健全な活用といえるでしょう。

今後の法人税制は、制度を知っているかどうか以上に、その背景や意図を理解したうえで経営判断ができているかが問われる局面へと移行していきます。

中小企業税制の見直しと留意点

中小企業向けの軽減税率や各種特例措置については、引き続き一定の配慮が示されています。
ただし、「中小企業であれば大丈夫」という感覚のままでいることには、注意が必要です。

今回の税制改正大綱では、資本金や従業員数といった形式的な基準だけでなく、事業の実態や経済活動の規模、取引構造などを重視する姿勢がより明確になっています。

法人単体では中小企業に該当していても、グループ全体で見たときの規模や役割によっては、見られ方が変わる場面も考えられます。
特に気をつけたいのは、「これまで指摘されたことがないから問題ない」という認識です。
制度の運用が変われば、過去に問題にならなかった点が、あるタイミングで突然俎上に載ることもあります。知らないうちに優遇の対象外と判断されるリスクは、決して他人事ではありません。

事業承継税制や減価償却に関する特例についても、簡素化や透明性向上が意識されています。
慣例的に使ってきた制度であっても、自社の状況が制度の趣旨に合致しているかを改めて確認しておくことが重要です。
中小企業税制は「使えるかどうか」だけでなく、「どう見られるか」が問われる局面に入っています。
将来の否認リスクを抑えるためにも、定期的に自社の立ち位置を見直し、必要に応じて専門家と相談しながら対応していく姿勢が求められるでしょう。

賃上げ促進税制と経営判断への影響

賃上げ促進税制は、2026年度においても重要な施策として位置づけられています。

人手不足が常態化する中で、賃金水準の引き上げに取り組む企業を支援するという方向性は、今回の大綱からも明確です。
ただし、税制があるから賃上げを行う、という判断には慎重さが求められます。
賃金は一度引き上げると元に戻しにくく、短期的な税負担の軽減以上に、中長期の固定費として経営に影響を与え続けるからです。

賃上げを検討する際には、その後の人員構成や業務量、生産性とのバランスまで含めて考える必要があります。
賃金だけが先行し、業務設計や評価制度が追いつかない状態では、期待した効果が得られないケースも少なくありません。

一方で、人材の確保や定着が課題となっている企業にとって、賃上げが避けられないテーマであることも事実です。
重要なのは、「どの水準まで、どのような形で引き上げるのか」を自社の経営戦略と結びつけて判断することにあります。

賃上げ促進税制は、経営判断そのものを代替する制度ではなく、その判断を後押しするための仕組みです。
制度に振り回されるのではなく、自社にとって必要な賃金設計は何かを見極めたうえで活用する姿勢が、安定した経営につながっていくでしょう。

消費税とインボイス制度

消費税率については、今回の改正で変更は示されていません。

一方で、インボイス制度については、制度定着に伴う実務負担への配慮が引き続き検討されています。
中小事業者や個人事業主との取引では、事務負担の増加や取引条件への影響が現場で課題となっています。

今回の大綱でも、こうした実情を踏まえた運用面での調整が意識されています。
制度の前提が大きく変わるわけではなく、段階的な見直しが行われる想定です。

免税事業者からの仕入税額控除については、適用期限を2031年まで延長したうえで、控除割合を徐々に縮小する方向性が示されています。
取引先の状況次第では、契約条件や実務フローの見直しが必要になる場面も出てくるでしょう。

個人課税の視点と経営者個人への影響

法人経営者にとっては、法人税だけでなく、個人課税の動向にも目を向ける必要があります。
役員報酬や配当、退職金といった項目は、法人と個人の税負担のバランスを考慮しながら設計することが重要です。

金融所得や資産形成を含めた個人課税全体についても、見直しに向けた議論が続いています。
これらの動きは、経営者個人のライフプランとも無関係ではありません。
法人と個人を切り離すのではなく、一体として捉える視点。その重要性は、今後さらに高まっていくでしょう。

まとめ

2026年度税制改正大綱は、税率の変更以上に、経営者の姿勢や判断の在り方を問う内容となっています。
制度をどう使うかではなく、どのような経営を目指すのか。その前提を見直すことが求められているといえるでしょう。

改正の方向性を正しく理解し、自社の成長戦略や人材戦略とどのように結びつけていくのかを考えることが重要です。
今後公表される詳細や正式な制度設計にも目を配りながら、場当たり的ではない、戦略的な判断を積み重ねていきましょう。