資金調達は企業経営において必要不可欠であり、中小企業やスタートアップ企業にとっては成長や存続を直接左右する重要な課題です。
しかし資金調達には多くのリスクが潜んでおり、十分な知識や準備がないまま進めると大きな損失や信用の低下を招くことになります。
実際に多くの経営者が資金調達の過程で陥りがちな落とし穴が存在しており、成功を目指すはずの行動が結果として企業の足を引っ張ってしまうケースも少なくありません。
本章では、経営者が資金調達の過程でやってしまいがちなNG行動について具体例と共に詳しく見ていきます。
資金調達の目的が曖昧なまま動いてしまう
資金調達に着手する際、まず必要なのは「なぜ今、その資金が必要なのか」という明確な目的です。
現場ではこの部分が曖昧なまま資金調達を急いでしまうケースが非常に多く見受けられます。
経営者が「とりあえず資金繰りが苦しいから」と漠然とした理由で金融機関に相談を持ち掛けたり、投資家にアプローチしたりすることは珍しくありません。
資金調達の目的が明確でなければ、調達すべき金額も、返済のスケジュールも、活用するファイナンスの種類も定まらず、結果として非効率で危険な資金調達に陥ってしまいます。
特に注意が必要なのは、運転資金と設備投資、事業拡大のための資金が混同される場面です。
短期的なキャッシュフローの補填を長期融資で賄おうとしたり、将来の売上を過信して過剰な資金を調達したりすると、利払いの負担が膨らみ収益を圧迫します。
また資金の使途が不透明なままでは、金融機関や投資家からの信頼を得ることも困難になります。
このような状況を避けるためには、資金の使い道を具体的に言語化し、数値としても裏付けた上で調達プランを立てる必要があります。
自己資本と他人資本のバランスを無視する
資金調達の手段は大きく分けて自己資本によるものと他人資本によるものの二つに分類されます。
この二つの違いやそれぞれの特性を深く理解しないまま、目先の資金確保だけにとらわれて偏ったファイナンスを進めてしまう人が少なくありません。
自己資本が著しく不足しているにもかかわらず、銀行融資などの借り入れに頼りすぎると財務体質は脆弱になります。
借入金に対する返済負担が大きくなればなるほど、キャッシュフローが不安定になり、次の資金調達もますます困難になります。
一方で自己資本だけにこだわってしまい、適切なレバレッジをかけずに事業拡大の機会を逃すという過ちも見られます。
健全な企業経営を続けていくには、自己資本と他人資本のバランスを保つことが必要不可欠です。
そのためには、財務諸表の健全性を保ちつつ、どこまで他人資本を受け入れられるかを見極める力が求められます。
調達手段の多様性を活用できない
資金調達と聞くと真っ先に銀行融資を思い浮かべる経営者は多いかもしれません。
確かに長年にわたって日本では銀行融資が資金調達の王道とされてきました。
しかし現在はクラウドファンディングやベンチャーキャピタル、売掛債権の現金化、補助金・助成金、株式公開など、資金調達の手段が大きく広がっています。
一部の経営者はこの変化を把握しておらず、旧来の手法だけに固執してしまうことで自ら可能性を狭めてしまっています。
スタートアップや成長段階にある企業にとっては、スピード感や柔軟性の高い資金調達手段を活用することが成否を分けるポイントとなります。
また金融機関との信用が未確立な段階では、ビジネスパートナーからの資本参加や投資家とのネットワークづくりも有効な選択肢となり得ます。
資金繰り表や財務計画を作らずに調達に臨む
資金調達を行う上で資金繰り表や財務計画の作成は基本中の基本です。
ところが実際はこれを軽視したり、そもそも作成していない経営者が少なくありません。
資金繰り表は一定期間における資金の流出入を可視化するものであり、調達した資金がどこにどう使われ、どの時点でどれだけのキャッシュが必要になるかを把握するために不可欠な資料です。
これがないまま資金調達に動いてしまうと、短期的には資金が潤っても半年後や一年後に再び資金難に陥る資金ショートのリスクが高まります。
また金融機関や投資家に対しても、資金繰りや収支の見通しを明確に説明できなければ信用を得ることはできません。
「今後どう資金を使い、どのように返済してリターンを生み出すか」というストーリーがなければ、資金提供側は安心して協力できないのです。
専門家や外部アドバイザーを活用しない
経営者が全てを一人で判断し、資金調達の交渉から契約条件の精査、書類の作成までを独力で行おうとするケースは少なくありません。
創業当初などは人的リソースが限られており、経営者が多くの役割を担う必要があるのは理解できます。
しかし金調達は専門性の高い分野であり、金融商品ごとのリスク特性や契約内容、金利や手数料、税務面での影響などを正しく理解していなければ大きな損失を被る可能性があります
公認会計士や税理士、弁護士、中小企業診断士、あるいはファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、第三者の視点で調達手段や条件を検討することが重要です。
信頼できる専門家と長期的な関係を築くことは、資金調達に限らず今後の企業運営にとっても大きな資産となります。
出資や融資の条件を軽視してしまう
資金を得ることに成功しても、それが本当に自社にとって有利な取引であるとは限りません。
出資であれば株式の希薄化、融資であれば返済条件や担保設定、金利などの詳細条件が企業経営に長期的な影響を及ぼします。
多くの経営者が陥る過ちは、「今すぐ資金が必要」というプレッシャーに押され、契約条件の精査をおろそかにしてしまう点にあります。
また投資家との契約においては、将来的な株主構成や経営の自由度にどのような制約が発生するかを十分に把握しておく必要があります。
「資金調達が成功した」という事実の裏には、必ず「どのような条件で、どのような責任を負ったのか」という視点が存在します
経営者は短期的な資金の確保に目を奪われるのではなく、5年後・10年後の企業像を踏まえた上で慎重に契約内容を吟味するべきです。
調達後の報告義務を怠る
資金調達が完了するとそこで一段落と考えてしまう経営者がいますが、むしろ本番はその後に始まります。
調達した資金をどのように使い、事業がどのように進捗しているかを継続的にモニタリングし、必要に応じて投資家や金融機関に報告することが信頼関係を維持する上で極めて重要です。
エクイティファイナンスによって外部投資家から資金を得た場合には、定期的な経営報告やKPI(重要業績評価指標)の提示、経営会議への参加対応などが求められるケースも多くあります。
これらを怠ると資金提供者との関係が悪化し、次の資金調達が困難になるばかりか、契約違反として法的リスクを抱えることもあります。
銀行融資においても、事前に提出した事業計画との乖離が大きい場合には追加の報告を求められたり、信用格付けに影響が出ることがあります。
資金の使途が計画と大きく異なる場合には事前に相談・報告することが重要です。
まとめ
資金調達は企業にとって不可欠な経営活動であり、正しく活用することで事業成長の原動力となります。
しかしその過程での判断ミスや準備不足、理解不足が積み重なると思わぬ落とし穴にはまり、大きな損失や経営危機を招くことになりかねません。
資金調達の成功は経営において調達した資金をどのように活かし、成長につなげるかという点にかかっています。
経営者としての判断力と責任感が企業の未来を大きく左右することになります。