資金繰りの管理や資金調達については経営者が責任をもって行うべき最重課題ですが、ともすると資金を用立てること自体が目的になってしまい、その本来の目的を見失ってしまうことがあります。
資金繰りに窮している時ほど、余裕がない時ほどこの傾向が強くなるので、経営者は常に冷静さを失わず大きな視点で経営を捉えておくことが望まれます。
本章では、資金調達はそもそも何の目的で行うのか、どのような方法がありどういったリスクを考える必要があるのかなど、資金調達を行う前に知っておくべきことについてじっくり考えてみましょう。

資金調達の目的

資金調達の目的

余裕のない時は「とにかく借りられるだけ借りたい、すぐに現金が欲しい」と考えがちです。
しかし何のために資金を集めるのか目的と目標を捉えておなかいと望ましい事業運営に繋げることができません。
事業拡大のためであれば新規市場に進出するための製品ラインの拡充のため、研究開発であれば新製品や新技術の開発のため、マーケティングであれば認知度向上のための活動など、資金集めの目的は異なります。
目的を明確にすることで必要な資金額が明確になり、効率的な資金集めが可能になります。

資金調達の方法

資金調達の方法

目的が明確になれば、どのような資金調達方法が適しているか判断しやすくなります。
資金調達の手段を大きく分けて見てみましょう。
①エクイティファイナンス
株式を発行して資金を調達する方法です。
投資家は企業の株式を購入し、その対価として資金を提供します。
第三者割当増資の他、ベンチャーキャピタルからの出資なども検討することができます。
エクイティファイナンスで得られた資金は返済の必要がないので安定した事業資金として活用できます。

②デットファイナンス
デットファイナンスは借り入れや融資を指します。
具体的には銀行からの借り入れや社債の発行などによって外部資金を調達します。
デットファイナンスで得た資金は返済義務があるため、返済計画を立てて計画的に運用しなければなりません。

③アセットファイナンス
会社の資産を売却して現金化し、これを事業資金として活用する方法です。
具体的には在庫の処分や固定資産の売却、また売掛債権の売却であるファクタリングもこの部類に入ります。
外部資本に頼らない手段のため、返済にかかる負担が生じず、また株式発行のように株主が増えることがないので、企業経営の自由性を脅かされずに済みます。
ただし現金化できる資産が無いとこの方法では資金調達が叶いません。

④補助金や助成金
他には主に経済産業省や厚生労働省が所管する補助金や助成金を活用することもできます。
これらは返済不要ですが、申請の準備等にかなりの手間と時間を取られます。
補助金は応募しても必ず採択されるとは限らないので、採択されなければ応募にかけた手間と時間が無駄になります。
助成金は要件を満たせば必ず支給されますが、施策が小口なため得られる資金の額はわずかです。
補助金と助成金はどちらも後払いの性格があるので、目下必要な資金は自前で用意が必要です。
その上で国が定める施策を実行し、これが認められた後での支給となります。

投資家に対する対応

投資家に対する対応

上記のうちエクイティファイナンスを活用する場合、単なる外部資本の注入ではなく、資金を投資してくれる投資家を株主として会社に迎え入れることになる点に留意しなければなりません。
投資家はその企業を成長させることで配当などの利益を得ることを目的にしていますから、まずは具体的な事業計画を示して納得してもらわなければ資金を提供してもらうことはできません。
エクイティファイナンスは資金の性質として安全性が高いメリットがある反面、この点に多くの配慮が求められます。
また資金を提供してもらった後も、株主は会社に一定の口出しをする権利があるので、意思疎通を密にしておかないとトラブルになります。
定期的な報告をして丁寧な対応を心がけてください。

リスク管理について

リスク管理について

経営者の仕事は資金を調達して終わりではありません。
企業運営全般にわたって得られた資金を活用するわけですから、そのリスク管理も並行して行います。
調達した資金を投下する事業については競合企業や市場の変動などを調査し、投下する資金が十分生かせるかどうか検討します。
リスクの程度によっては資金を別の事業に振り向けたり、別途リスク管理を行って万が一に備えるということも必要になります。

事業計画の立案

エクイティファイナンス、デットファイナンス、アセットファイナンスのどれを検討するにしても、その前に事前に必要になるのが事業計画です。
経営者自身が頭に中に描けているつもりでも、実際に計画書に書き出さないと見えてこない問題やリスクが存在します。
また投資家から資本を募る場合はより綿密な事業計画の策定が必要です。
投資家に納得してもらわなければ資金の提供を受けられないので、ここはかなり本腰を入れて行うことになります。
事業計画の立案、策定では主に以下のような要素を組み入れて検討することになります。

① 市場分析
ターゲットとなる市場や競合の分析を行い、自社が参入した場合の成長の可能性を分析します。

②マーケティング戦略
市場に対し自社の商品やサービスをどのように投入するのか、またどのように顧客を獲得するかを計画します。

③製品開発
自社製品やサービスの開発プロセスやスケジュールを明確にします。
経営者自身はもとより、自社役員や投資家と共有することでプロジェクトの進行を管理することができます。

④財務計画
収益の予測を立てて財務面の計画を数値化していきます。
これにより社内で将来予測を共有でき、また投資家にも十分な利益を得てもらえることを説明できます。

⑤組織体制の整備
事業推進にあたり必要となる人材の確保などについて検討します。
必要人材のスキルや経験、人材確保に必要になる人件費などの算定も行います。

投資家や債権者と付き合い方について

投資家や債権者と付き合い方について

株主となる投資家だけでなく、融資を行う債権者からも一定の助言や要望を受けることがあります。
債権者の場合は株主と違って経営そのものに直接影響する強制力はないのですが、意見が衝突すると資金を引き揚げられてしまったり、貸し渋りを受けることになります。
ですから株主に対しても債権者に対しても基本的にはオープンな姿勢で対応し、建設的な意見は受け入れる姿勢を見せることが大切です。
事業計画の修正を求められる可能性もあるので、必要に応じて対応できるように準備しておきましょう。

デットファイナンスを利用する場合の留意点

デットファイナンスを利用する場合の留意点

返済が必要なデットファイナンスを利用する場合、約束した期日には利息を乗せて返さなくてはなりません。
当然返済計画を綿密に練らなければなりませんが、本業に支障がでないように十分な計画を立てる必要があります。
利息がかかるわけですから借りた以上の金額のキャッシュが減ることになるので、それ以上の儲けを出さなければ収支は赤字になり財務状態が悪化します。
計画通り利益を出して返済資金を確保できなければ企業倒産の危機が生じることになるので十分注意しましょう。
自社資産の売却で資金確保を行うアセットファイナンスではこの心配は要りません。

まとめ

本章では経営者が資金調達前に知っておくべきことを取り上げて見てきました。
資金確保は経営者の重要な仕事の一つですが、これ自体が目的になってしまうと本来の会社の使命や目的が置き去られることになってしまいます。
何のために資金調達を行うのか、余裕のない中でも冷静さを保って考えられるようにしたいものです。