我が国のトップである総理大臣が交代し政府人事も刷新されたところで、新しい展望に期待が持てそうな人、そうでない人それぞれいらっしゃると思います。
国内では依然として様々な問題が山積しており、直近では「2025年問題」が控えています。
本章では2025年問題とはどのようなものか捉えながら、各業界別の課題についてそれぞれ見ていきたいと思います。
■2025年問題とは
まずは2025年問題とは一体何なのか概要を押さえておきます。
この問題は簡単に言うと日本の超高齢化、少子化が進むことによる様々な諸問題を総称したものです。
社会の高齢化がさらに進むことにより、例えば労働力の不足、社会保障費の負担増加などが懸念されています。
これにより、これまで日本を支えてきた社会インフラの維持が難しくなり、国民がこれまで通りの生活がおくれなくなる危惧がもたれているのです。
2024年の時点で日本の人口に対する現役世代の割合は55%程度とされています。
働ける人が居なければ、国の存在自体が危うくなることは想像に難くありません。
次の項からはこの2025年問題が各業界でどのように影響してくるのか見ていきます。
■業界別2025年問題の影響
①医療業界
高齢者の増加に伴い医療インフラの重要性は増すことになります。
しかし医師や看護師など医療人材の供給が追い付かないことで、医療サービスの提供が十分にできなくなる恐れがあります。
自治体は医療インフラのコンパクト化を図っているので、人口の少ないエリアで医療施設が一つもないという地域が増えそうです。
遠隔診療の設備や人材の育成などが今以上に望まれることになるでしょう。
②介護業界
高齢者が増えれば介護業界の需要も急増します。
今でも高齢者の増加に対して介護サービスの供給が十分とは言えない地域があり、こちらも介護人材の育成や配置の面で今後の課題を抱えます。
医療と同じく、人口の少ないエリアでは供給自体がされていない地域もあり、こうした地域に住んでいる高齢者が移転を余儀なくされる例もあります。
介護業界は認知症高齢者の急増という問題にも対応しなければならないので、専門知識や技術を持つ人材の育成が求められます。
③物流・運輸
物流業界ではかなり前からこの問題が叫ばれていたところです。
私たちの身近な生活品はもちろん、社会インフラを支えるあらゆる資源が物流の力によって地域に届けられているわけですが、物流インフラも結局のところ人間の手で支えられています。
トラックドライバーなど働く人の確保に課題が出ているのは周知の事実で、各社人材確保に苦労している現状が見えます。
この業界では人材の不足を補うために、飛行機や鉄道網など従来は物流に利用されていなかったインフラを有効活用しようとする取り組みが見られます。
使える資源はとことん使って物流網の維持に取り組んで頂きたいと思います。
④IT業界
生成AIの登場などIT業界でもサービス需要が高まっています。
デジタル人材として有能な若い人も増えているようですが、全世界的に増しているデジタル人材の需要に対して供給が追い付いていないとされています。
また、一般企業でもITに明るい人材は最低限揃えておかないと事業に支障が出ます。
業務効率化を支援する各種のツールなどは大変便利ですが、これらを使いこなすにはそれなりの知識やスキルが必要です。
人事異動や転職、退職などがあることを考えれば、自社内で基幹的な業務にあたるデジタル人材を育て、これを軸にデジタル人材が不足しないような仕組みを作っておくと安心です。
⑤製造業界
製造業は人材確保だけでなく資材の高騰や燃料費の高騰などの影響もあり、中小の事業者はこれまでも苦しい経営が続いていました。
製造業界では一度仕事を教えれば半自動稼働が可能なので、最近は海外からの労働者を積極的に採用し、戦力として育てている所もあります。
ただ地方の中小零細では外国人の受け入れ態勢が整っていなかったり、住民として地域への溶け込みが上手くいかないなど仕事以外の課題が出てきているところもあります。
地域社会への根付きを会社が応援するなどの取り組みも見られるので、企業として仕事以外の支援体制が今後求められてくるでしょう。
⑥建設業界
建設業では技術者の高齢化で退職が相次ぎ、若い年齢層への技術の伝承が上手くいかない例が出ています。
重労働のきつい仕事というイメージも手伝い採用への応募自体が減っているとする経営者の方もいらっしゃいます。
せっかく採用できた人材を効率的に育て、手放さないようにするためにも、人材育成の効率化と同時に就業環境の見直しなども求められます。
⑦観光・宿泊・飲食業界
これらの業界でも国内人材の不足から営業時間の短縮が行われる例が見られるようになっています。
心配な面があるのは事実ですが、この業界では製造業以上に外国人材の取入れが進んでいるようです。
地方だとまだ浸透していないかもしれませんが、首都圏ではホテルなどの宿泊、観光方面、また飲食方面でも外国人の労働者が増えています。
複雑なスキルが不要な反面、日本特有の「おもてなしの心」を持ってもらうには研修に力を入れる必要があるかもしれません。
■国はどのような対応を取っているか?
ところで、国はこの2025年問題に対してどのような対応をとっているのでしょうか。
ここでは現状で国がとっている施策について見てみましょう。
①社会保険の適用拡大
人口減少により社会保障費の増大がかねてから問題になっていました。
国は少しずつ社会保険の加入者を増やす戦略をとっており、これによって社会保険料の収入増加を図っています。
これまで社会保険の加入から漏れていたパートさんなども積極的に加入させることで、働く人の安心感も得られます。
ただしこの施策で得られる収入の増加は大幅な期待を持てるわけではなく、社会保障費問題の突破口になるわけではありません。
②事業承継の支援
日本の経済を支えているのは全国各地の中小企業であることは間違いありません。
この中小企業が今、後継者不足に悩んでいて事業承継が上手くできずそのまま廃業してしまう例が増えています。
雇用の受け皿が消滅してしまうことで地域経済に直接影響する他、国全体の経済力を落とす要因にもなってしまうため、対応が急務となっています。
国としては事業承継を支援する体制の構築を進めており、自治体や商工会などと協力して事業承継専門の相談機関を設置しています。
事業承継に少しでも不安があったり、早めに対策をとっておきたいならばぜひこうした機関を活用してください。
また事業承継の際に株式などの資産にかかる相続税が負担にならないよう、生前贈与による贈与税や相続時の相続税の課税が繰り延べられたり、免除される仕組みもあります。
遺産分割で問題になりやすい遺留分の問題に対処できる遺留分の特例などもあるので、こうした施策の情報も相談することで得られます。
③介護人材の育成支援
介護人材の不足は国民の不安に直結するため、国も人材の育成支援に積極的に取り組んでいます。
例えば介護技術を獲得するための研修を個人負担無しで受けられるようにしたり、人材育成に取り組む事業者を金銭的に支援するなどの施策を行っています。
介護業界では外国人材の受け入れも進んでいるため、これをサポートする取り組みもあります。
④働き方改革
男性が育児休暇を取りやすいようにしたり、夫婦が協力して家庭を維持できるよう、働き方改革も並行して進められています。
育児だけでなく、高齢の親を介護するための介護離職が増えているという問題もあり、これによる経済損失はかなり大きいとされていますから、働く世代が普通に働ける環境を作ることは国としての大きな役目だと言えるでしょう。
■まとめ
本章では2025年問題とはどのようなものか捉えつつ、各業界別の影響について見てきました。
海外の先進国でも人口減少の問題が見られるところがありますが、日本の人口減少や高齢化は他国と比べても非常に速いスピードで進んでいます。
社会全体に大きな影を落とす問題あり、その社会を支える企業にも当然影響は出てきます。
業界によって多少差はあると思いますが、問題の根幹は同じですので、今後は多様な人材の確保や就業環境の整備などが求められてきます。
経営者の皆様には、どのような人材でも活躍できる会社作りをぜひともお願いしたいと思います。