消費者としての身分しかない被雇用者と違い、経営者ともなれば身近な家計だけでなく広く国全体の経済についても見識を持っておくことが望まれます。
経営者同士の集いの場では少なからず経済動向の話は出るでしょうし、雇用動向や物価なども経営に大きく影響しますから、経営者が集まれば必ずその話題になります。
本章ではGDPや雇用統計など主要な経済指標について、経営者が知っておくべき知識を横断的に解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
GDP(国内総生産)
必ず押さえるべき指標がGDPで、テレビ等のマスコミでも定期的に公表されていますから聞き覚えはあると思います。
GDPは国内で生産される財やサービスなどの付加価値を合計したもので、内閣府が四半期ごとに発表しています。
GDPには名目GDPと実質GDPがありますが、名目GDPは物価の影響を受けて数値が膨らむ傾向にあります。
そのためGDPデフレータという指標を使って物価の影響を除いた実質GDPがとくに注目されます。
「経済成長率」という言葉をよく聞くと思いますが、これはGDPの伸び率を表したもので、特に注釈がなければ実質GDPの伸び率を指すのが普通です。
実質GDPを基にした経済成長率は以下の式で表すことができます。
(当期の実質GDP-前期の実質GDP)÷前期の実質GDP×100
GDPは大きく内需と外需の要素で構成されていて、内需のうち最大の項目が民間最終消費支出です。
これはつまり国内の個人消費が最も経済に寄与していることを表します。
公需では政府最終消費支出が最大で、これは公務全般に係る支出です。
この二つの項目でGDP全体の70%~80%を占めるとされています。
GDPのブレはインフレを引き起こす要因ともなります。
GDPは実際のGDPの他に潜在GDPという指標があり、これは実現のハードルを下げて考えた実現が容易なGDPと考えて頂いて結構です。
実際のGDPを潜在GDPが上回る時にデフレギャップといい、言葉通りデフレ傾向に進んでいることを示唆します。
逆に実際のGDPが潜在GDPを上回っている状態をインフレギャップといい、経済がインフレ傾向にあることを示唆します。
経済ニュースなどでワードが出てきたら注目してみてください。
雇用統計
次に雇用関連統計の主要なものを見てみます。
①有効有人倍率
経営者なら常に敏感に察知していたい指標です。
<これは有効求職者数に対する有効求人数の倍率を示した指標で、仕事を探している人と求人を募っている企業とのバランスを見る指標となっています。
端的に示すと「求人数/求職者数 」の式で表すことができます。
この数値が1を下回ると不景気で職がなく失業者が増えている状態、逆に1を超えるようなら好況で仕事が見つかりやすい状態で、企業の立場から見ると求人が集まりにくいことを示します。
この数値は後に出てくる景気動向指数の一致系列に採用されています。
②完全失業率
15歳以上の働く意思を持つ人(労働力人口)に占める完全失業者の割合です。
完全失業者は働く意思があり、就職口があればすぐにでも働ける人で、病気などで働きたくても働けない人は完全失業者に含まれません。
この指数は景気の動きに対して遅れて反応を示す性質があるため、後に出てくる景気動向指数の遅行系列に採用されています。
景気動向指数
景気動向指数は景気の動向を把握したり、予想したりすることができる指標で、内閣府が公表しています。
景気動向指数には、実際の景気に先んじて動きを示す先行系列と、幾分遅れて動く遅行指数、ほぼ差がなく一致して動く一致系列の三種類があります。
代表的なものだけ挙げてそれぞれ見てみます。
①先行系列
・新規求人数
・東証株価指数
・実質機械受注(製造業)
など
②一致指数
・有効求人倍率(学卒除く)
・生産指数
・全産業営業利益
など
③遅行指数
・消費者物価指数
・完全失業率
など
割とニュースで聞く機会の多い消費者物価指数は実際の景気動向に幾分遅れて動く指数で、景気が滞り家計の収入に響いてきた頃に個人消費者の財布のヒモが硬くなり始めるといったイメージです。
景気動向指数にはCIとDIという二つの指標があり、前者は景気変動の大きさや量感を把握することができ、後者は採用する指標のうち改善を示す指標の割合を探ることができます。
日銀短観
全国企業短期経済観測調査という正式名称ですが、日銀短観の方が圧倒的に聞き覚えがあるでしょう。
日銀が音頭を取って四半期ごとに実施する調査で、全国の企業動向を把握して金融政策のかじ取りに役立てることを主な目的にしています。
資本金2000万円以上の企業が調査対象で、全国1万社以上、業種や規模も満遍なく拾って調査しているのに加え、日銀の信用を基に回答率がほぼ100%となっていることから非常に信頼性の持てる経済指標となっています。
この調査の中で注目されるのが業況判断DIです。
現在の状況や3カ月後の景気予測に関してアンケートがなされ、企業側は「良い」「さほど良くない」「悪い」の3つの選択肢のうちから一つを選んで回答します。
「良い」と答えた割合から「悪い」と答えた割合を引いて結果が算出され、例えば「良い」が50%、「悪い」が10%だとすると、50%-10%で業況判断DIは+40と示されます。
景気ウォッチャー調査
景気ウォッチャー調査は地域経済を敏感に察知できる業種(タクシー運転手や小売店経営者など)を景気ウォッチャーに指名し、アンケート形式で地域の景気の動向を報告してもらうものです。
国全体ではなく地域性の強い経済指標ですが、速報性がありその地域の経済事情を汲み取れる重要な経済指標です。
ローカルニュースで経済の話題を扱う際に出やすいワードですのでぜひ注目してください。
機械受注統計
機械受注は上で説明した景気動向指数の先行指数にも採用される指標で、設備投資の動向を先んじて掴むことができます。
設備投資を考える企業は投資として使用する機械の製造を発注することになるので、この数値が大きくなると景気が上向いていると判断することができます。
内閣府が所管する統計で、四半期ごとに発表されますが、機械受注の中でも船舶や電力業方面からの受注は除かれます。
これらの機械受注はボリュームが極端に大きかったり不規則だったりと、景気観測の要素としては適さないと考えられるため、参考にする場合は「船舶・電力を除く民需」の数値を見るべきとされています。
物価統計
物価関連統計では以下の二つが注目されます。
①企業物価指数
企業物価指数は企業間でなされる財の取引を対象とし、基準時点の財の価格と100とした場合の現在の価格を数値化したものです。
企業物価指数は下でみる消費者物価指数と比較すると、国内はもとより世界経済の事情がダイレクトに影響します。
というのも、事業者の活動における為替やエネルギー価格などの影響が直接的に数値に影響するため、その時々の事情がダイレクトに響き、振れ幅が大きくなるからです。
企業物価指数は日銀が所管する経済指標で、下の消費者物価指数とよく比較されます。
②消費者物価指数
企業物価指数は日銀が所管しますが、消費者物価指数は総務省が所管する経済指標です。
国内の消費者世帯が購入する財やサービスに関する価格の動きを調査するものです。
報道機関からは消費者物価指数と企業物価指数が一緒にアナウンスされることが多いですが、上で見たように企業物価指数は経済状況をダイレクトに受けるため振れ幅が大きくなる特徴があるのに対し、消費者物価指数はそれに比して振れ幅は控えめです。
これは例えば原油高などで企業の輸入コストや製造コストが上がったとしても、それがそのままダイレクトに商品の値段に加味されることは通常なく、企業側の努力によってその影響が薄められるからです。
消費者物価指数の上昇率を表したものがインフレ率で、前年と当年の消費者物価指数の上昇率として表されます。
物価の上昇と聞くと良くない印象を持つ人もいますが、経済成長に上手くかみ合わせることで国全体の経済力増進につながるので決して否定されるものではありません。
我が国の中央銀行である日本銀行の主要な目的は物価の安定であり、物価上昇率2.0%を具体的な目標に掲げています。
まとめ
本章では経営者が知っておくべき主要な経済指標について代表的なものを見てきました。
日本は資源のない国であり、経済力の維持が自国の発展に必要不可欠です。
近年はGDPが他国に抜かれてしまい経済競争力を落としていると指摘がされているところで、多少心配があることも確かです。
経営者としても、また一国民としてもこうしたマクロ的な経済指標や足元の雇用統計、景気動向指数に注目したいところです。
これまであまり意識が向いていなかった人は、ニュースなどで話題が流れてきても「へーそうなんだ」くらいで流していたかもしれません。
意識して聞いているとニュースの中でかなりの頻度で取り上げられますから、今後はぜひ意識して捉えるようにしてください。