日本の税金は種類が非常に多く、世界的に見ても税制度がかなり複雑であることが知られています。
税金は個人の生活防衛においても事業者の事業運営においても大きなコストになるので、できるだけ余計な税金を納めなくて済むように合法的な節税は常に考えておきたいものです。
その際に頼りになるのが税理士ですが、相談する側としてもある程度の知識を持っておかないと効果的な相談ができなかったり、十分な支援を受けられない可能性があります。
本章では税理士に相談する前に知っておくべき点について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。

■得意分野・守備範囲は税理士によって異なる

得意分野・守備範囲は税理士によって異なる

私たちが体の不調を覚えて病院に行くとき、風邪気味なら内科や耳鼻科、皮膚のトラブルなら皮膚科と、できるだけ専門性のある医師がいる医療機関を受診しますよね。
税務分野でもこの意識を持つ必要があり、同じ税理士でも得意分野や守備範囲が異なることを知っておいてください。
冒頭でお話ししたように日本の税金は種類が多く、税制も複雑です。
この意味で、全ての税領域に精通した税理士はいないという認識を持つべきです。
大抵のケースでは、税理士は得意分野でなくとも相談されれば調べた上でそれなりの回答をしてくれると思いますが、正確性や精度は専門分野とする税理士には劣るでしょう
また迅速な回答を得られないことで時間的な制約が出るかもしれません。
ということで、相談する側としては相談する内容によって適切な対応を受けられそうな税理士を自ら選択する必要があります。

■相談する側が押さえておくべき税理士の守備範囲の違い

相談する側が押さえておくべき税理士の守備範囲の違い

相談相手の税理士と望ましいマッチングを果たすには、どういった分野で相談したいのかを明確にして、その領域を得意分野とする税理士を探さなければなりません。
税目は多岐にわたるため全部は取り上げられませんが、最低でも以下の種別については押さえておきましょう。

①法人税

法人経営をしている事業者が節税などの相談をしたいならば法人税に明るい税理士を探すのがベストです。
HPなどを見て法人企業の税務サポートを強くうたっているかどうか確認してください。
法人経営に関する税務はビジネスに関する知識も必要で、これ一種目だけでもかなり広範囲かつ深い税務知識が求められます。
他の分野の税務相談と並行するには負荷が高いため、法人経営の税務相談だけを専門とする税理士も多くいます。
法人税に明るい税理士であれば通常は消費税にも通じているはずです。

②所得税

個人事業を行っている場合は事業者であっても法人分野とは税体系が全く異なります。
個人事業者は経営と個人の切り離しが無いので、個人の所得税の体系の中で税務処理を考えます。
個人の所得税も実際には非常に複雑で所得の種類だけでも10以上あります。
なおかつこれらの所得種別は相互に関係しあい、ある所得の赤字を別の所得の黒字と相殺して税負担を減らすことができます。
これを損益通算と言いますが、法人税にはこの仕組みは無く、うまく使いこなすことで相当の節税を見込むことが可能になります。
ですから個人事業の場合は個人事業者の税務サポートの経験が豊富な税理士に相談すると有利になります。

③相続・事業承継

法人経営者、個人事業者どちらについても近年は相続および事業承継の問題が取りざたされているところです。
相続は個人の死亡に伴う相続および相続税の処理が必要になり、事業承継は個人の相続に加えて事業の承継をも考える問題です。
事業者の場合は個人と事業を切り離して考えるのではなく一体的に対応していかなければならず、この分野もかなりの専門性と知識、ノウハウを求められます。
例えば相続人への株式の承継を考える時、他の相続人が不公平を感じると法律上のルールを使って権利主張され、株式の一部が分散してしまうことがあります。
これを防ぐために様々なルールや特例があり、これらを上手く使って事業承継を円満に進める必要があります。
また事業を他の企業に譲渡するM&Aも頻繁に行われるようになっていますが、こちらも相当の専門性を必要とする分野で、失敗例も多く聞かれます。
相続税分野は今回示している税目の中でも特に専門性が高いため、相続専門税理士として専門性をもって活動する税理士が多くいます。
さらに事業承継問題を抱える場合はこちらにも精通する必要がありますから、対応できる税理士は限られてきます。
WEBサイトなどでぜひ専門性が高く経験が豊富な税理士を探してください。

④創業支援

スタートアップなど創業支援を得意とする税理士もいます。
起業時特有の問題に対応できる税理士が適任と考えられますので、創業支援の経験が豊富な税理士を探してみましょう。
地元の商工会や自治体の創業支援の窓口に相談すると紹介を受けられることが多いので、この分野の税理士探しは比較的楽です。

⑤税務調査対応

不幸にもすでに税務署に目を付けられてしまい、税務調査が入りそうだという場合は税務調査への対応を任せられる税理士を選びたいものです。
大抵の税理士は必要であれば税務調査への対応もしてくれると思いますが、顧問税理士ではなく飛び込みの相談の場合、十分な準備期間が取れないと断られてしまう可能性があります。
税務調査への対応は元国税専門官の経験を持つ税理士の方が有利とされていて、元国税調査官の経験があれば相手がどのような目線で調査を行うのか知っていますから有利な対応が望めます。

■相談に必要な情報を事前に準備する

相談に必要な情報を事前に準備する

実際に税理士に相談する際には必ず事前に参考資料の準備をしてから伺うようにします。
せっかく相談に行っても目で確認できる資料が無いと税理士も的確な回答が出せません。
どの税目でどういった相談をするのかによって参考資料が変わってくるので、事前にアポ取りの際に持参する資料について聞いておきましょう。
ビジネス方面であれば法人でも個人事業でも貸借対照表などの財務諸表は最低でも必要になります。
個人事業の場合は住宅ローンの状況や医療費、民間保険の加入状況を知るために関係資料の用意を求められるかもしれません。
相談の際に何が必要になるのか必ず確認しておきましょう。

■税理士は経営や投資そのものの責任は取らない

税理士は経営や投資そのものの責任は取らない

一つ注意しておきたいのが、税理士はあくまで税金に関する相談に応じてくれるだけであって、事業そのものについては何ら責任を取ってくれることはないということです。
例えば個人で不動産業を営む人が不動産投資の方面で税金の相談をしたいという要請が多くあります。
税理士は不動産経営における節税や税務処理などの相談には応じてくれますが、事業を実施した結果については責任を取ってくれません。
余計な税金を払わなくて済むよう、物件を買い増してはどうかとアドバイスを受ける可能性がありますが、仮にそのアドバイスに従って物件を買い増した結果、空室リスクにより経営上の損害が出たとしても、それは事業者の判断で行ったことであり、税理士は責任を取る立場にありません。
税理士はあくまで税金に関する相談や税務処理を行ってくれる存在にとどまるということは押さえておいてください。

■無料で相談できることもある

無料で相談できることもある

費用をできるだけかけずに相談したい場合は無料の相談サービスを利用することもできます。
国税庁はチャットボットを使った簡易な相談ができる仕組みを提供しているので、ごく簡単な内容であれば節税のヒントを得られるかもしれません。
電話で相談したい場合はナビダイヤルでの相談もできます。
こちらはナビダイヤルのため一定の電話代がかかりますが、相談料のようなものは一切かかりません。
電話よりも対面で相談したい場合、あるいは税務署に相談するのは避けたいという場合、地元の税理士会などが無料相談を提供していることがあります。
税理士個人でも多くの事務所が初回相談無料で応じてくれることが多いと思いますが、大抵は具体的な解決策の提示を受けるまでには至らないでしょう。
地元税理士会が組織として提供する相談会であればもう少し踏み込んだ回答を得ることができるかもしれません。
また市役所などの公的機関は税理士や司法書士、行政書士などの各士業界と提携して無料相談を実施していることが多いです。
ただしどの無料相談も依頼者が費用を払う有料相談よりは対応や回答の精度は落ちるので、本格的な相談をしたい場合は無料相談ではなく有料相談を受けるのがお勧めです。

■まとめ

本章では税理士に相談する前に知っておくべきポイントについて見てきました。
相談先選びは相手税理士の専門性を意識し、こちらがどの税目の相談をしたいのかを考え、その分野に精通する税理士に相談するようにしてください。
費用面では無料相談だと精度が落ちるので、高精度の相談をしたいならやはり有料での相談を考える方が良いでしょう。
相性もあるので、本格的に付き合う税理士は話しやすさや対応の丁寧さなども要素に入れて検討してください。