経営に携わる方であれば、日ごろから経営理論や実務の勉強、情報の収集に余念がないことと思います。
普段から実務に携わっている人でも、他者の目線や意見に触れることで新たな知見を見出せたり、アイデアの創出につながることはよくあります。
この回では「両利き経営」の理論についてご紹介させていただきますので、参考にして頂ければ幸いです。

■両利き経営とは

両利き経営とは

「両利き経営」はスタンフォード大学大学院教授のチャールズ・オライリーと、ハーバードビジネススクール教授のマイケル・タッシュマンの両氏が提唱した理論で、英語での原書は2016年に初版が刷られたとされています。
「両利き経営」では既存事業の強化と新規事業の開発、推進を両立することが重要と説きます。
我々一般のビジネスマンも既存事業の強化は守りの経営、新規事業の開発は攻めの経営などと言うことがありますが、両利き経営理論では既存事業強化を「知の深化」、新規事業の推進を「知の探究」と呼んでいます。
具体的には「知の深化」では競業他社との競争に勝ち抜くため、業務改善や無駄なコストの廃除などを徹底し、自社製品の強みを強化して競争に勝ち抜くというようなことがうたわれています。
常に深化を目指し、ライバルの中に埋もれてしまわないように努力し続けることが大切というわけです。
一方で知の探究は新規事業の立ち上げを意味し、既存事業とは異なるフィールドに打って出よ、ということです。
実はこれまでも経営者の間では「既存事業にしがみついていてはいずれ会社は潰れてしまう」ということはよく言われていたことです。
もちろん業界やビジネス内容の将来性にもよりますが、イメージとしては原油を掘り続けていればいずれ資源が枯渇するようなイメージで、永久に続けていける保証がない以上、新たな分野に打って出る姿勢は必要だというのは知られていたところです。
ただ必要性は分かっていても、そう簡単にはいかないのもまた事実です。

■新規事業を生み出す難しさ

新規事業を生み出す難しさ

新規事業の開発、推進は簡単にできるものではありません。
「ゼロイチ」という言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、誰かが作ったものを大きくすることは割と簡単で、「1」を「2」や「3」、あるいは「10」まででも育てるのは割と簡単にできます。
これは土台があるためで、ひな型があれば書類作りをしやすいのと似ています。
ゼロイチは「0」から「1」を生み出すことで、これはある種の才能がないとできません。
アイデアやひらめきの創出は努力をしてもなかなか具現化できるものではないのです。
社内を見渡しても、二代目、三代目といった経営者は自分で一から事業を立ち上げた経験がなく、役員や社員にも新規事業を立ち上げた経験などないのが普通です。
新規事業をやるぞと簡単にいってもアイデアはすぐには生まれませんから、どうしても既存事業に安泰してしまうことが多くなります。

■両利き経営推進のための基本的なスタンス

両利き経営推進のための基本的なスタンス

そこで重要になるのが今回のテーマである「両利き経営」です。
新規事業は成功する保証はなく、むしろ失敗のリスクの方が高いと言えます。
足掛かりとなる成功体験もなく、手探りの状態で進めるわけですから闇雲に進めれば大きな損失を生みます。
既存事業で安定した収益を上げていれば、新規事業で少々の失敗をしても会社は潰れませんし、新規事業で知り得た知識やノウハウ、情報などは既存事業にも生かすことができます。
失敗できる環境で挑戦することが重要ということですね。
既存事業だけに捉われるとイノベーションが枯渇し、既存事業自体も縮小してしまいますから、そこに新しい刺激を入れる意味でも新規事業への挑戦は重要なのです。

■両利き経営の体制作りのポイント

両利き経営の体制作りのポイント

新規事業は闇雲に進めればよいというものではなく、あくまでも既存事業との相乗効果を狙うのが常道です。
新規事業を狙う上では、これまで行ってきた既存事業の技術や人材、資産などを生かせる分野をまず考えてみましょう。
例えばビルメンテを行う事業者がホテル経営に乗り出したり、ホテル事業者が高齢者施設の運営に乗り出すなどの例が見られます。
少しでも経験や技術、ノウハウが生かせる分野であれば成功の可能性を高めることができます。
そして既存事業と新規事業では事業推進にかかるビジョンを共有し、お互いに影響し合って成長できる機構として運営していくことが望まれます。
そのためには経営層はもとより、従業員にもその意識を共有してもらうことが大切です。
新規事業を進める際には既存事業とは別組織を立ち上げて、これに専念できる環境を整えましょう。
既存事業を担う組織が片手間に行うのでは上手くいきません。
経営資産やノウハウは共有するとしても、責任をもって新規事業を推進する部署は新たに立ち上げ、人員も専従の地位を与えます。
そして新規事業を担う社員には別の評価制度を持って評価するようにします。
仮に利益という形で大きな成果が出なかったにしても、経営者としては新規事業の立ち上げ当初はそういうものだと割り切るようにしましょう。
早期に目に見えた利益確保を求めてしまうと、スタッフに過度な負担がかかってしまいプロジェクトがとん挫してしまう恐れもあります。
新規事業を統括する管理職に適切な人材がいないようであれば、社長自らが陣頭指揮を執って社員の雇用や生活、安全が完全に守られることを約束して進めるということでも良いと思います。
社長直轄の特命チームと銘打って乗り出せば、従事する社員もやる気が湧くことでしょう。

■まとめ

本章では「両利き経営」理論を取り上げ、考え方や実践方法などについて見てきました。
元々、既存事業に捉われない経営の大切さは言われていたところですが、学者さんもこの重要性は以前から認めていたようですね。
先代から経営を引き継いだ方はぜひ意識をしてもらいたいものですので、既存事業の守りを固めつつ、新たな分野に挑戦する姿勢をぜひ持って頂ければと思います。