物価と賃金上昇の好循環が強く望まれていたところ、いよいよその機運が高まり、実際に大手企業を中心に賃上げが実施されています。
中小ではまだ波及していない部分もあるものの、全体として賃上げが随時実施されていくものと思われます。
企業にとっては支出増の要因ともなるので、単に賃上げを実施すれば良いわけではありません。
本章では賃上げによって企業に発生する問題や検討すべき対策方法などについて解説していきます。

賃上げの動向はどうなっている?

賃上げの動向はどうなっている?

まず現状国内での賃上げ動向を押さえておきましょう。
国内では国が強力に主導して賃上げを後押ししていることに加え、物価高が国民生活を圧迫していることから国民からの賃上げ要求が強くなされているところです。
また労働力需給の面からも人手不足が深刻化しているため、高い賃金を払わないと人が集まらないというのが実際のところです。
このような状況の中で、企業によっては初任給を大幅に引き上げたり、組合の賃上げ要求に対して満額回答をするところも多くなっています。
労働側としは企業から概ね満足のいく回答を得られているわけですが、上記のような社会情勢の中で今後も賃上げ要求は行われていくものと思われます。
企業側としては引き続き賃上げへの対応を迫られることになるので、必要な対応を考えていかなければなりません。

賃上げで企業にどのような問題が出るのか?

賃上げで企業にどのような問題が出るのか?
企業側にとっても賃上げの必要性は強く感じているところで、必要な賃上げをすること自体については一応の納得はできると思います。
ただ支出が増えるわけですから負の影響も当然出てきます。
ここでは賃上げで企業にどのような影響や問題が出てくるのか見てみます。

①人件費コストの波及

賃上げによって支払い給与が増えるわけですから当然人件費のコストは膨らみます。
企業側として認識が求められるのは単純に給与月額分の負担増に止まるわけではなく、波及してコスト増の影響が広がることです。
例えば時間外の手当については基本給をベースに考えるので、基本給が増えれば時間外手当も連動して上昇します。
また賞与や退職金などについても同様で、ベースとなる基本給の上昇は他の支払いに関してもコスト増の影響を及ぼします。
労働保険や社会保険の企業負担分にも影響するので、こちら方面の負担増についても意識しなければなりません。

②新規採用が難しくなる

既存社員の賃上げを行うと上で見たように基本給だけでなく幅広い方面に負担増の効果が波及し、人件費コストが大幅に膨らみます。
これで既存社員は満足できるかもしれませんが、あらたに人を雇うための資金が足りなくなると新規採用ができなくなるかもしれません。
社員の年齢構成のバランスを保つための定期採用ができなくなると、長期的に会社の運営に支障が出てくるかもしれません。
またパートやアルバイトなど短期雇用の人材を頼っている企業の場合、必要な場面で必要な人材を確保するための資金を賄えないと現場を回すことができなくなるかもしれません。

③利益圧縮による収益減少

支出が増えれば当然収益を圧迫することになります。
給与支払いに充てる支出が増えて現金が枯渇すれば、必要な支払いができなくなる資金ショートの危険が増します。
中長期的に利益を圧迫すれば経営難の原因になる可能性もあります。
人件費コストが増す分については収益の増加によってカバーする必要があり、今以上に売り上げを上げるための施策や対策が必要になるでしょう。

どのような対応が望まれるか

どのような対応が望まれるか

では賃上げを検討するにあたり、考えられる問題に対応するために企業側としてはどのような対応が望まれるか見ていきます。

①従業員の精鋭化

できるだけ少ない人材で効率的に事業運営が可能になるよう、従業員の精鋭化を進める必要があります。
必要な教育やトレーニングを行い、従業員一人当たりの戦力増強を目指します。

②離職防止策の検討

せっかく育てた社員も離職されてしまうとそれまでにかけた教育費などが無駄になってしまいます。
この点については社員の定着率がなかなか上がらないことで辛い思いをされている経営者の方も多いと思います。
福利厚生の充実や風通しの良い職場環境を整備する、パワハラやセクハラなどが起きない安心できる職場環境を提供するなど、一般的に言われている対策は多くあるのでぜひ検討しましょう。

③収益拡大の仕組み構築

賃上げに係る原資を賄うために売り上げを上げる施策の検討が必要です。
既存の事業で無駄があれば、これを無くして利益の最大化を図る、不採算部門があれば切り離してスリム化を図る、新規事業にチャレンジして収益のチャンネルを増やすなど経営面での模索が必要です。

④賃上げ税制の活用

賃上げは国が主導しているところで、税制面では賃上げを行う企業に優遇策が用意されています。
一定の要件を満たした場合、前年よりも給与の支給を増やした企業は法人税や所得税から一定額が控除される仕組みがあります。
青色申告をしている企業が対象となるもので一定の手続きも必要ですが、減税分を賃上げ原資に回すことができるので可能であれば検討しましょう。

⑤適切な賃上げの検討

実際に賃上げを実施する場合、その実施方法の検討も必要です。
賃上げの方法にはベアと定期昇給の二つがあります。
定期昇給は社員個々人の基本給を定期的に上昇させるものです。
ベアはベースアップのことで、基本給の算定の元になっているテーブル自体を上昇スライドさせるものです。
物価上昇に伴う対応には基本的にベアが適しているので、ベアと定期昇給を同時に実施することも考えましょう。

まとめ

本章では賃上げによって企業に発生する問題や検討すべき対策方法などについて見てきました。
当初は賃上げは大企業止まりになるかとの憶測がでたこともありましたが、人手不足などの事情も相まって中小でも賃上げをしないと実質的に事業が回らない所が多くなっています。
賃上げはコスト増となり経営を圧迫する要因ともなりますが、必要な支出ということで覚悟を決めて検討しましょう。
経営の効率化を図ることで対応が可能になるので、自社でできることをぜひ考えてみてください。